
vol.440(発行日: 2018年8月20日)
校友スポットライトでは、最前線で活躍する校友を紹介。
現在のお仕事のことをはじめ、私生活や学生時代のエピソードなどについてお聞きします。
大阪工業大学・経営工学科・平成8年卒業
株式会社 野乃鳥
代表取締役
野網 厚詞
さん

大阪工業大学の卒業生の中には、経営者としてそれぞれの業界をリードする人が数多くいる。今回ご登場いただく野網厚詞さんもそのお一人。甘みとうま味を備えたブランド地鶏を看板に、大阪で現在10店舗の飲食店を営んでいる。

幻の地鶏の味にとことん惚れ込んで
阪急電車宝塚線の池田駅から徒歩3分。ひっそりと灯をともす「野乃鳥本店」は、カウンター7席ほどの焼き鳥店。一枚ものの杉板を使った立派なカウンターテーブルがダウンライトに浮かび上がり、モダンなしつらえは大人の隠れ家といった趣だ。営業は毎週金曜と土曜の2日間。平日は予約客のみ受け入れるスタイルが特別感を誘う。カウンターの向こうで、磨き上げた焼きの腕を振るうのは野網さん。紀州備長炭で炙ると勢いよく立ち上る煙と香ばしい香りに、お客さんからは笑みがこぼれる。使っているのは野網さんが日本一と誇る「ひょうご味どり」。日本三大地鶏のうちの2種である薩摩鶏と名古屋種を基に白色プリマスロックという品種で三元交配を行い、日本酒の原料米である山田錦を飼料に育てた希少な地鶏だ。株式会社野乃鳥ではこの地鶏を全量買い上げ、JAみのり(兵庫県加東市)から仕入れている。

産地を巻き込み六次産業化に挑む
実は野網さんは経営コンサルタントの顔も持つ。3年前まで、経営が行き詰まっていたJAみのり養鶏事業所の業務コンサルタントに就いていた。産地と関わるほどに見えてきたのは養鶏業が直面しているさまざまな問題。その一つが若年者の厳しい就職事情だ。産地にある兵庫県立播磨農業高校では養鶏についての勉強も行なっているものの、生産者側には新たに人を雇うまでの元気がない。また、手塩にかけて飼育した鶏もなかなか売り先を見出せずにいることに、もどかしさを感じたという。「僕らは生産者の思いを伝えられる末端の立場。未来を見据え、情報を発信していく役割をきちんと果たしていけば、解決できる問題もあると考えました」。こうした思いから播磨農業高校と協働。兵庫県の一部でのみ飼育されていた幻の「ひょうご味どり」に着目し、生徒たちが独自の飼料で飼育して流通させる取り組みをサポートする。また、卒業生たちを自社で雇用し「鶏をさばけて語れる人」を育成。即戦力を産地に送り込むことにも力を注ぐ。

大学時代の学びが未来を切り開く
空調設備の設計会社を営んでいた父親の背中を見て育ち、いつか自分でも商売をやってみたいと考えていた野網さん。4回生の時に村杉健先生の「行動科学」のゼミで、ビジネスの基礎を熱心に学んだことが今につながる原点だ。焼き鳥との縁は学生時代から。「初めてのバイト先が焼き鳥チェーン店。授業の合間に仕込みをし、一生懸命勉強しました」。卒業後は人気焼き鳥店と割烹で修行を積み、安くておいしい気軽な店には人の喜びとビジネスチャンスがあると、20年前に「野乃鳥」をオープンさせた。経営者でありながら今も現場主義。毎朝7時からセントラルキッチンで自ら鶏をさばき、汗を流すことも忘れない。今後は産地との連携をより深め、若者のさらなる雇用促進や地域の活性化を図っていきたいと熱く語る。「遠方へは、とり鍋セットなどの通販も行なっています。ぜひ当社自慢の鶏を召し上がっていただき、産地の背景に思いを寄せてもらえれば嬉しいです」。